- 2007年02月20日 00:53 葡萄酒、そして傾いた天秤
対象楽曲:「歓びと哀しみの葡萄酒」「エルの天秤」
「歓びと哀しみの葡萄酒」には「Loraine de Saint - Laurent(ロレーヌ・ド・サン・ローラン)」という女性が登場します。後世にまで残るほどの傑作となったワインを残した彼女ですが、彼女は「エルの天秤」にて恋人と逃走劇を繰り広げ、そして仮面の男アビスに恋人を殺され、その後アビスを刺し殺したその女性そのものであると考えられます。
まず分かりやすい点としては、エルの天秤で使われて以降、ライブなどでも大人気となった「残念だったねぇ」という語りの部分。「歓びと哀しみの葡萄酒」にもこの声が入っています。ちょっと聞き取りにくいかとも思いますが、どこにあるか分からない人は、3分24秒付近をもう一度聞きなおしてみてください。必ず聞こえるはずです。
ロレーヌの人生を時系列に示すと、以下のようになるかと見受けられます。
なお、後に父親が再婚し「継母」が屋敷にきていることから、母親は死別、または離婚している事が見て取れます。
おそらく、ロレーヌと使用人の恋仲について、「祖父」は容認していたのではないでしょうか。そうでなければ、ワインの醸造方法を娘がよく知るほどに放置はしていないでしょう。権威主義の「父親」も、まあ祖父の言う事には逆らえないか、あるいは逆らうほどのメリットがなかったのでしょう。
しかし、そこに容認できなくなった理由が誕生しました。「父親」の元に嫁いできた「継母」はとんだ浪費家で、伯爵家の財産を食いつぶしてしまったからです。一度傾き始めれば貴族といえども脆いものです。
そこで、伯爵(父親だと思われる)は娘を政略結婚のために使おうとします。有力な貴族と婚姻関係を結ぶことで、自らの家の格も取り戻そうとしたのでしょう。実に「権威主義」の父親らしい行動と見えます。
この時、祖父がいればこの父親を止めたのではないでしょうか。しかし、祖父のことは一切話に出てきません。おそらく没落前後に、死去してしまったのでしょう。
こうなれば、父親を止める人間は誰もいません。
そしてやがて業を煮やした伯爵は、どこからか噂を聞きつけ、仮面の男アビスに、娘を呼び戻す事を依頼します。「エルの天秤」では、娘の病気を治すための治療費を集めようと、どんな悪事にも手を染める仮面の男が描かれています。
そしてそんなアビスに対して、父親は
「娘さえ戻ればそれでよい。使用人のほうなど殺しても構わんわ」
と、非常に冷徹な面を見せています。仮面の男はその依頼に従い、船を使って他国にでも逃げようとした二人を、船着場で待ち伏せて、捕らえてしまいます。そして…恋人の使用人は"バシャン"という水音がしているように、川に投げ込まれて殺害されてしまいました。
ロレーヌは式の途中で姿を消し、そして……見つけたアビスを背中からナイフ、またはそれに順ずる刃物によって突き刺します。この時、彼女は半狂乱状態だったのでしょう。とどめを刺すこともなく、叫び声をあげながら走り去っていきました。
そうして、作り上げたブドウ園において、彼女は穏やかに、一人「彼」に教えてもらったやり方でワインを造り続けたのでしょう。彼とすごした時間の『歓び』、そしてその最愛の彼を失った『哀しみ』という経験こそが、知らずのうちにワイン製造に深みを与え、後世にまで残るワインを作り出せたのだと考えられます。
ちなみに「樫の樽の中で 眠ってる可愛い私の子供達」という部分の表現は、純粋にワインの事だと思います。彼の残した技術によって、ロレーヌが作り上げたワインは、まさしく彼女にとって「子供」同然なのでしょう。また、「どんな夢を見ているのかしら」というのは、今後そのワイン達がどのような人たちのもとで飲まれるのか、ロレーヌ自身が夢想している姿ではないでしょうか。
最後に。このワインと思われる葡萄酒が「見えざる腕」にも出てきます。そうすると、少なくとも「歓びと哀しみの葡萄酒」は「見えざる腕」よりも以前の話となります。関連して、「エルの天秤」ひいてはElysionの物語はChronicle 2ndにおけるガリアの戦いよりもさらに過去の時代の話であるという事になりつつも、この二つの地平が繋がった物語の中にあることを示していると考えられます。