- 2007年09月22日 23:19 レコンキスタの裏に在りし物語
対象楽曲:「争いの系譜」「石畳の緋い悪魔」「侵略するものされる者」
個人的に、「聖戦のイベリア」の物語の流れを曲順にまとめてみました。
文章は比較的断定的に書いてありますが、これは短くまとめるためであり、もちろんこれが
正しいと言っているわけではありません。あくまで個人的な見解です、ご了承ください。
あるところにいたイスラム教の父とキリスト教の母(※注2)という異宗教を信仰する両親を持った《美しき夜の娘》ライラ
レコンキスタ運動の激化により家庭の環境も悪化していく。キリスト教をとるのか、イスラム教をとるのか。
やがてライラはそんな家庭に耐えかねて家から逃げ出す
その折、彼女はどちらかの勢力からの攻撃を受け、街の地下に隠された封印に追い込まれる
そこにはかつて古の聖人と蒼氷の石によりよって囚われた悪魔が封印されていた
男はライラに名を尋ね、ライラもまた男に名を尋ねる。だが男の名は少女に聞き取ることはできずシャイターン(悪魔)(※注3)と呼ぶこととする。
男は、少女と契約し、自由の身を得る。それと同時にライラは人としての正常な死を迎える事ができない毒に蝕まれ《美しき夜の娘》から《焔と契った少女》となる
※注1:「レコンキスタ運動」
実際に中世スペインであったキリスト教圏とイスラム教圏の長き戦争。かつては「国土回復運動」と訳されたが近年は「再征服運動」とされる。
718年から1492年にかけて行われ、グラナダ王国のアルハンブラ宮殿(アルハンブラは赤い城の意)が陥落したことでレコンキスタ運動は終結した。
※注2:「イスラム教の父とキリスト教の母」
「侵略する者〜」にて父を奪ったのは「啓典の民」
「啓典の民」とはイスラム教から見たユダヤ、またはキリスト教信者のこと
そのため、ライラの父親はムスリム(イスラム教徒)と考えられます
母親については、単純にムスリムの可能性あはるが、それだとライラが家から逃げ出す事の理由がつかない気がします。そのため今回はキリシタンとして考察します
※注3:「シャイターン」
アラブにおけるジン(精霊、魔人)の中で上位から第三位の存在。ライラがこの名を使ったということ、また《美しき夜の娘》時代の彼女がベールを巻き、隠していることからも彼女はアラブ圏の生活を主にしており、ややイスラム側であると見受けられます
※注4:「〜それぞれ敵対する宗教に殺されてしまう」
注1に同。母親の《聖典の兄弟》とはコーランを信じるイスラム側の人間達のことを示していると考えられます
※注5:「同じ神を信奉するはずの2つの宗教(兄弟)」
イスラム教とキリスト教はその原点にまでさかのぼっていき、突き詰めれば信じる神は同じです。
(両方とも預言者アブラハムから分かれていった宗教)
このCDは、この両教の戦いを、聖書における最初の殺人であるカインとアベルの兄弟殺しにかけているものと思われます。
※注6:「畏レヨ、汝、『悪』ノ名ヲ」
いがみ合う2つの勢力をまとめるのに一番てっとり早い手段は何か。それは両者に対して絶対的な『悪』=敵が現れる事ではないかとも考えられます。
シャイターンとの戦いでキリスト教とイスラム教が協力したのかは不明ですが、しかしその後、イベリアの戦争は終焉に向かっている模様です。
関連楽曲:「争いの系譜」
「聖戦のイベリア」で出てくる《悪魔》シャイターン。
彼が作中で呼ばれている「シャイターン」はあくまでも《美しき夜の娘》であるライラが
勝手にそう呼ぶことにしただけの存在です。
※ちなみに「シャイターン」はアラブにおけるジン(精霊、魔人)の中で上位から
第三位の存在です。固体名ではなく、その階級を示す言葉になります。
では、彼の正体は何なのでしょうか?
彼は、ライラの問いに、「異国の響き」を持つ言葉で答えています。ここが彼の本名を
解き明かすキーワードと考えます。
何度もリピートして、該当部分をかろうじて聞いてみるに、彼は
「シャルタン・マック・ラース」などと言っているように私には聞こえます(後ろ2つの音節は曖昧)
これはいったい何を示すのでしょうか。
色々な神話などを調べていきますと、ケルト神話でかの有名なクー・フー・リンの父
として「Sualtam Mac Roth(シャルタン・マック・ロイ)」という名前が浮かび上がってきます。
※クー・フー・リンの父親は一般的に太陽神ルーですが、「Sualtam Mac Roth」は
クー・フーリンが生まれた時に、彼女と結婚していたのが「Sualtam Mac Roth」で
あり、育ての親に相当します。
また、彼は、「アルスター伝説」というクー・フー・リンを主役として据えた物語の中で、
アルスターという地を追放されてしまった統治者「Fergus Mac Roth(フェルグス・マック・ロイ)」の
兄弟である、とされています。
※フェルグスは、エクスカリバーの原型とされる「カラドボルグ」の所持者です。
ケルト神話における人間は、一種の「神」です。女神ダーナの神族である「ダーナ神族」
(トゥアハー・デ・ダナン)を駆逐した「ミレシアン」は神でありながら、ケルト民族の祖である
「人間」としての性質を持ちます。
クー・フー・リンは半神半人の存在として一般的にかかれますが、「人間」とされる彼女の
母親「Dechtire」も、鳥の姿になって一時期来世に飛び立ったり、人間らしからぬ行動を
とります。
そう考えれば、「Sualtam Mac Roth」が神性を持ち、長期にわたって封印されていた点も
あながち間違いとはいえないと考えます。または、ライラに見つけられるまで、それこそ
「時間ニ置キ去リニサレタ」というように、彼の「時」自体が止められていたのかもしれません。
さて、ケルト神話はキリスト教にとっても、イスラム教にとっても異教です。他の宗教の
偉大な人物などを貶めて断罪するのは宗教がその地を支配する際によくやる手です。
彼もその犠牲者だったのではないかと考えられます。
そして、自らの名を名乗ったところ、正に貶められた身分の呼称である
「シャイターン」(悪魔)と呼ばれ、自らを皮肉げに笑ったもの、と私は考えます。
というわけで、ひとまず私的なシャイターンの本名は「Sualtam Mac Roth」という
結論となりました。正直、異論は多々あるかと思うのですがひとまず今回はここまで。
ちなみに、「石畳の緋い悪魔」にて「名前サエ忘レテイタ」という記述があり、ここで
語っているのが本名ではないという説も考えられると思われます。しかし、その後に
「君ガ呼ンデクレル迄ハ」という記述があります。
これは、ライラが彼の名を問うことによって、名を思い出し、語った、ということであると
私は解釈します。