- 2008年09月10日 01:07 神話に語られし創生神と六姉妹
対象楽曲:「神話」「遥か地平線の彼方へ」
アルバム「Moira」は、タイトルや各所に出てくる単語、固有名詞などはギリシャ神話を非常に強くイメージしたものが含まれています。しかしながら、「神話」の歌詞による神々の系譜、そして「遥か地平線の彼方へ」にて「暗誦詩人」が語る内容は、ギリシャ神話からは大きくかけ離れたものです。
さて、ここでまず一番最初に「創生の三楽神」という存在があったということが示されています。それを聞きとると、以下のような名称であるように聴き取れます。
・長兄神「リスモス」
・二兄神「メロス」
・末妹神「ハルモニア」
このうち、ハルモニアはギリシャ神話にも登場する調和の神ですが他の2柱は、ギリシャ神話の神々などではありません。
では、これらはどこからでてきたものでしょうか?あるいは私の聞き間違えなのでしょうか?
答えは「楽神」という名称と、詩人が謳っている「歌とは、そもそも神の御業じゃ」という部分にあると思われます。つまり、「音楽」がきわめて強いファクターになっているのです。
西洋では音楽は「リズム(拍子)」「メロディー(旋律)」「ハーモニー(和声)」によって
構成されるという概念があります。
つまり、
「リスモス」は「リズム」、「メロス」は「メロディー」、「ハルモニア」は「ハーモニー」
を示していると考えられるのです。
※音楽の「ハーモニー(和声、調和)」の語源はギリシャ語「ハルモニア」(和音などではなく音節、音、を示す)で、さらにその語源はギリシャ神話の神「ハルモニア」ですので、この場合、語源に戻した、というべきかもしれません。
音楽の基本要素こそが始原の神々であったのであれば、まさしくこの世界において音楽とは「神の御業」なのでしょう。
また、ハルモニアから生れし6柱の姉妹は、いずれの名も「教会旋法」の種類になっているようです。
※旋法とは音楽を作るうえでの基礎で、使う音階や構成方法の作法の決まり事などのことです。現在は長調、短調、のようにまとめあげられています
・長女「イオニア」(ドレミファソラシド)
・二女「ドリア」(レミファソラシドレ)
・三女「フリギア」(ミファソラシドレミ)
・四女「リディア」(ファソラシドレミファ)
・五女「エオリア」(ラシドレミファソラ)
・六女「ロクリア」(シドレミファソラシ)
※イオニア旋法とエオリア旋法、ロクリア旋法は、伝統的な教会旋法ではなく、変化形です
これはかつてカトリックのグレゴリオ聖歌などに使われた旋法の種類です。また、見ていただいてわかるとおり、ドから始まるイオニア旋法から、順番にひとつづつあがっていっています。(ソから始まるミクソリディア旋法だけ省かれていますが…)
なお、教会旋法はもともとは古代ギリシャの旋法が元であり、本来ギリシャ神話がベースのMoiraでは教会旋法ではなく、古代ギリシャの旋法で考えるべきかもしれませんが、古代ギリシャの旋法にはロクリアなどの変化旋法が存在しないので教会旋法であるとして考えています。
音楽にて世界を創り、物語を奏でるSound Horizonにとって、これら三楽神と六姉妹たちによる音楽による世界の創生こそまさしくふさわしい神話ではないでしょうか。