対象楽曲:「沈んだ歌姫」
この歌を聞く時、どうしても主眼は蒼の歌姫と紅の歌姫の行く末にいってしまいます。
しかし、このような歌姫同士の争いを起こさせた時の国王アレッサンドロ一世は、
いったい何を考えていたのでしょうか。
彼は前王であるモンテフェルトラーノ四世は「突然の崩御」によって国王に座しました。
明記こそされていないものの、これはアレッサンドロ一世による謀殺をうかがわせます。
また、我先に、と争う貴族達の様子を見て以下のような不可解なセリフをのたまっています。
「予を産み堕とした…この世界に復讐する為のな…」
つまり、彼にとって、この歌姫同士の争いこそがなんらかの形での「復讐」になりうるわけです。
では、彼が復讐したかったものとはなんでしょうか?
まず最初に、「世界」と言っていますが、それはあまりにも抽象的で、対象が広すぎます。
まずは最初に、このイターニアという国家の状況を考えてみます。
イターニアのモデルとなっていると思われる史実の中世イタリアではミラノ、ヴェネチア、
フィレンツェの各都市は神聖ローマ帝国の傘下という名目ではありますが、独立した
政治的権限をもった都市国家となっていました。
しかしながら、国王の勅令に、各都市が我先にと自らの権限向上のために相争うところを
見ると、どうやらイターニアは史実の中世イタリアとは状況が違い、各都市には統括する
貴族がいるものの、基本的な最高権力は国王にあり、フィレンツェを首都とした一大国家を
築いているようです。
ここで、もう一度アレッサンドロ一世のことを考えてみます。
彼の元ネタになったと思われる人物は、
フィレンツェ公アレッサンドロ・デ・メディチ(1510-1537)
ではないかと思われます。フィレンツェを預かるという立場が一致しています。
このフィレンツェ公は、黒人奴隷、あるいは田舎の農民が母親という説があり、
通称「イル・モーロ(色黒の意味)」と呼ばれるような肌の色だったそうです。
「沈んだ歌姫」のアレッサンドロ一世も似たような境遇だったとしたらどうでしょう。
王家と平民あるいは奴隷との間に生まれた子供。いかに王太子としての立場を持っている
としても、他にも有力な王位継承権などを持った人物がいたなら、ひょっとしたら
様々に疎まれ、理不尽な偏見なども受けた可能性すらあります。
となると、彼が憎んでいる『世界』とは貴族社会というものなのかもしれません。
そう考えると、彼の行動は理にかなっています。
まずは権力という餌をぶらさげて、貴族同士を相争わせて力を削いでいきます。
そして最後に残った者についても、手元に引き寄せたうえで最終的に謀殺してしまう。
これによってこの歌姫の狂騒に参加したあらゆる貴族に対して大きな打撃が与えられる
ことになります。
それこそがアレッサンドロ一世の目的だったのかもしれません。
彼にとってはジュリエッタが勝とうが、ロベリアが勝とうがどうでもよかったのです。
「全ては遊戯に過ぎぬ」というように、最終的には全てを殺し、滅ぼすつもりだったの
ですから…
イターニアのその後については、これまでどの曲でも書かれていません。
この後、アレッサンドロ一世はひょっとしたら、王政というシステム自体も破壊に
かかったかもしれません。
宰相ガレアッツォや寵姫ベアトリーチェも、名前だけが唐突にでてきて、他の歌には
一切出ておらず、どんな人物だったのかすらさっぱりわからないのが気になりますね。
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